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中島翔哉のドリブルの良さ

中島翔哉のドリブルの良さ

中島翔哉選手は、「ドリブルお化け」と称されるほどドリブルのうまさが魅力の選手。

一方で、ドリブルで仕掛けたあとに奪われ、逆に攻撃を受ける、というケースもあることから、「諸刃の剣」と批判を受けることもあります。

ただ、個人的には、諸刃であっても「剣」であることが中島翔哉選手の良さだと思います。

僕は昔バスケをしていたので、サッカーについての実戦経験はありませんが、バスケでも、「剣」になっていない攻撃は相手に全く影響を与えません。

バスケの場合、ボールをもらった際に「トリプルスレット」という姿勢でもらうことが重要になります。

トリプルスレットとは、「三つの脅威」という意味で、シュート、ドリブル、パスのいずれの選択肢にも瞬間的に移れる姿勢のことです。

ディフェンスのときオフェンスする相手が抜群にうまい選手であれば、常にボールをもらう際はトリプルスレットで、次の一手がどこに来るかわからず、相当の圧になります。

仮に技術や突破力がなかったとしても、このトリプルスレットで来られるだけでも相手の先手を取ることができます。

この姿勢で具体的に重要なのは、「膝」です。

膝をゆるく曲げた状態でもらうこと。膝が立ったままだと、たとえばシュートを打つ際に、《ボールをもらう(膝を立てたまま)→膝を曲げる→ジャンプでシュート》とモーションが二段階になりますが、膝を曲げた状態なら、そのクッションを使ってワンモーションでシュートに行けます。

これはドリブルでもそうで、膝のクッションで即座に勢いを持って抜き去る動きに移れます。

バスケは特にコートが狭く、攻撃のときはほとんど常にシュートできる範囲でボールをもらえるので、隙を見せたら即シュートが打てる姿勢にある、というのはデフェンスに相当のプレッシャーになります。

もう一つ大事なのが、実は「気持ち」です。

気持ちが乗っていないと、この姿勢で来られても何も怖くはありません。気を抜いたらシュートを打つぞ、というダミーではない真剣な気持ちと姿勢が一体となって、ディフェンスは本気で間合いを詰めようとします。

しかし、詰めてきたら今度は抜き去る。

こういう「圧」があることで、トリプルスレットはディフェンダーに対する効果を高めます。「気持ち」があって初めて、視線や姿勢など全体の空気感が相手に伝わります。

反対に、一番怖くないもの。一番見ていても苛だたしいのは、最初からシュートとドリブルが選択肢から消えた姿勢と気持ち(後ろ向き)で、頼りになりそうなチームメイトをすぐ目で追いかけるプレーです。

ちょっとプレッシャーをかけると慌てて目に入った選手にパスを出そうとする、ということが読まれると、簡単にパスカットもされますし、ディフェンスしていても疲れません。

これはサッカーでも同じことでしょう。

パスのためのパス、最後にフィニッシュが見えていないパスを回されても一向に怖くありませんし、見ている側も面白くありません。

中島翔哉選手のドリブルやプレーの良さは、このゴールありきでプレーすること。その道筋の途中で失敗することはあるかもしれませんが、その道を歩み出そうとすることです。

それが先ほどのバスケで言うトリプルスレットに近い攻撃性とプレッシャーを相手に感じさせることができます。

数年前、リオ五輪の出場を賭けたUー23アジア選手権の準々決勝のイラン戦で、前半幾度となく侵入を阻まれた中島翔哉選手。コーチ陣も当時の手倉森監督に中島選手の交代を進言したと言います。

しかし、手倉森監督は、交代させませんでした。そのときの理由について次のように語っています。

「イラン選手の顔が本当に嫌がっていた。翔哉が仕掛ける度にね。それと、試合の途中でドリブルを仕掛けながら、自分の左足でタックルをブロックするプレーがあった。『あっ! こいつ分かってきたな』って感じだったね。」

出典 : カタール移籍初ゴールから3年前。手倉森誠が中島翔哉を信じた理由。

その後、延長戦の後半に二発連続のゴール。このゴールは、その前の「気を抜いたらやられる」と相手に思わせるような攻撃性や積極性、技術力が合ったからこそでした。

中島翔哉選手の良さ、そして楽しんでやるサッカー、見ていて楽しいサッカーの根底には、子供の頃から人一倍多くボールに触れることで磨かれてきたボールセンスだけでなく、このバスケのトリプルスレットにも通ずる、常にゴールを見据えた攻撃性があると言えるでしょう。

最後にもう一点だけ加えると、中島選手は個人技が注目され、ややもすると周囲との連携がおざなりになっているように見えるかもしれません。

しかし、むしろその逆で、周囲との連動性(連携というより連動性と言ったほうが正しいかもしれません)こそが彼のストロングポイントだと僕は思います。

だから、中島選手と波長(感覚的なものとして)が合わない選手だと、中島選手も消えてしまいます。この辺りが人一倍彼の繊細な面でもあり、たとえば本田選手は、ある程度周りと合わなくても個を打ち出すことができますが、中島選手は、より調和型の選手です。

コパアメリカ2019のウルグアイ戦後のインタビューで、中島翔哉選手は次のように語っています。

どの選手もレベルの高い選手ですし、(南野)拓実も(堂安)律もそう。ただ、特長は少しずつ違うと思うので、組み合わせによってどういうプレーをしていくかというのは重要だと思う。それぞれの良さがあって組み合わせがまた違うので、若干違うスタイルになると思う。それを楽しみたいと思います。

出典 : バリエーションを増やす意識の中島翔哉「ときに大胆に、ときに連係で」

プレーの瞬間は何も考えないことが大事だ、と中島選手はよく語っています。

つまり、この選手(敵であれ、味方であれ)がこう動くから自分がどう動く、といったことを頭で考えるよりも、感覚、阿吽の呼吸を大事にしている、ということ。それは合気道とも似ているかもしれません。

総合格闘技で自分の強さを鼓舞する、というよりも、相手が存在することによって存在できる、相手と一緒に踊っているようにプレーできる、中島選手が連動性の高い選手だというのは、そういう意味においてです。